磯の童子

2009 磯底物釣行記
平成21年10月17日

No.10 米水津・事はこうして起こった

突然の釣行決定であった。
もう、ここから始まっていたに違いない。

いつもと違う行動パターンは、往々にして、いつもと違うに何かに繋がって行くのだ。


最後のメンバーF君を迎えに行くと既に駐車場で待っている。
こんな事は今まで一度も無かった。
そして助手席へ乗り込んだが、これも初めて。
往路は大抵、私が助手席で途中で運転を交代するのが常であった。

目的地近くの峠では、いつものような小鹿は見られず、野うさぎ、そして立派な角を持った牡鹿がいた。
「今日はなんか変やなぁ」。みんな感じていた。
しかし、色々な事がいつもと違うと言う事実は笑いの種でしかなかった。


四人で使うには十分な大きさの瀬である。
荷物を降ろし上の荷物置き場まで運ぶと息が上がった。しばらく休憩の後、イサキを釣ろうと私だけ釣り座へ降りて行き、 残る三人は軽く宴会の後、しばらく横になるらしい。

1.5号竿に2.5号ハリス、夜釣りであればもっと太くても良かったかも知れない。
ウキを浮かべると上げ潮の筈だが思うように流れてはいない。
何もないまま1時間過ごした頃、瀬際を流れていたウキが突然スッパーンと引き込まれた。 大物と確信するパワーを感じ、ラインを出し戦える体勢を整えてから、やり取りを開始したがヒトノシでラインがとんでしまった。

仕掛け一式失った上に、道糸の先端は中通し竿の中。最初から作り直しだが、大物が居るのなら面倒とも言っていられない。 寝ているみんなを起こさない様に小道具を取って来て、釣り座で仕掛けを作り直す事にする。

釣座に戻ると、上の方でキャップランプがチラチラしている。誰かが起きて釣りの準備をしているらしい。

しばらく仕掛け作りに没頭してふと顔を上げると、キャップランプの主が両手にバッカンを持ってフワフワと歩いて来るのが見えた。

その時、彼の体がグラリと右に傾いて、バッカンを抱えたままの両手を大きく広げながら「わあぁ」だったか、小さな声を発し、側転する様に頭から岩の間に消えていった。

(ええ?・・・あ、落ちた、落ちたぞ!)

「おーーっ!大丈夫かーーーっ!!」
作りかけの仕掛けを投げ捨てて、声を掛けながら近付いて行くと、「!”#$%&’」意味不明だが声が聞こえて少し安心した。

海面まで2・3m位だろうか、V字に切れ込んだ割れ目の海に首まで浸かったF君の顔が見えた。 片手にはバッカンのハンドルを握り、両手を拡げて体を支えているのか、どこかに足を掛けているのかは分からないが上体は安定している。その表情は半笑いに見えた。

脱ぎ捨てられたもろもろ

さて、どうやって引揚げるか。
と考える間も無く、F君は自力でほぼ直角の両側の壁に手足を掛けながら登り始めた。驚いた事に右手にはバッカンを持ったままである。 私は手を伸ばして助けようとしたが、そんなの必要ねーとばかりに、凄いパワーでグイグイ登ってくる。

水分を大量に含んだ服と離そうとしないバッカンはかなりの重量に違いない。 火事場の馬鹿力とはこういう事なのだ。

私は波間に漂うもう1個のバッカンを玉網で掬い上げてから怪我がないか聞くと、どこも痛くない。少し頭を何かがかすった程度だと言う。 「海の水は暖かかった」そうだ。

明るくなってから改めてその割れ目を見たが、フジツボだらけの細い隙間を落ちながら、擦り傷ひとつないのは奇跡であろう。

彼は強運の持ち主である事に間違いないだろうが、それ以前に彼自身のいつもと違う行動のすべてがここへ向かって進んでいたのかも知れない。



餌取りも居らず

明るくなる頃、石鯛竿に持ち替えた。

底物餌のガンガゼを触る餌取りすら居ない。

割って中身が見えている状態で仕掛けを落としても、卵巣はそのまま残るのは初めての経験だった。

餌がつつかれるポイントを探して瀬をグルリ回っても、一切触らない。

この瀬、呪われてるのでしょうか。

白君

上物竿に持ち替えるとコッパ天国。

コッパの上層を横切りながら撒餌を拾う魚影をオナガと見て、超浅棚にて狙うが、食って来たのはババタレ白尾長野郎であった。くっそ!

下げ潮が強くなると本流に遊ぶデカ口太の大群が見える。姿勢は下向きなので撒餌は拾って居ないようだ。

いつも通りの光景である。
やはりこの瀬、嫌いです。しゅーりょー


ポイント図を見ると底物の印もあるのですが、あり得ない位の無反応でした。

果たして、ここで石鯛は釣れる時はあるのか。もし釣れると聞いても、もう来ないかも。

米水津・小浦港 長伸丸(渡辺船長) 0972-35-6735

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